全国、そして世界中の空間に、もっと心地よさを。
ものづくり集団が挑んだのは、心遣いを感じる品質とサービスを結集させた、
かつてない大型シーリングファンだった。
板金加工や溶接業において卓越した技を持つものづくり集団、西田技巧。岐阜県・美濃加茂市にある自社工場の天井には、何台もの大型シーリングファンが音もなく静かに回っている。西田技巧が独自に開発し発売に至った「THE FIRST FAN」というプロダクトだ。工場内の環境というと、夏は空気がこもって暑いか、空調が効きすぎて肌寒いか。冬であれば底冷えがする……。そんなイメージを抱くのではないだろうか。しかし、「THE FIRST FAN」が回る、西田技巧の工場は対照的。工場の中にいるのに、自然の風がやさしく吹き抜けてくるように感じる。大げさでなく、初夏の高原にいるようだ。2019年の発売からわずか1年であるにも関わらず、企業や自治体からの問い合わせは絶えない。今回、西田技巧がなぜ、大型シーリングファンに目をつけたのか、さらには開発の裏話から、「THE FIRST FAN」の魅力まで、西田技巧の代表・西田裕幸氏と開発に携わった製造部・課長の山本大介氏に話を聞いた。
自社のアルミ素材の結露対策が、
大型シーリングファン開発のそもそもの始まりだった。
西田技巧さんは、板金加工や溶接などをメイン事業に据えているかと思いますが、なぜ、大型シーリングファンを開発するに至ったのでしょうか?
西田裕幸氏(以下、西田)私どもは事業の一環として、高速道路の側面に設置されている遮音壁を製造しているのですが、遮音壁の材料には、主にアルミを用いています。そのため、自社工場内には大量のアルミを保管しておく必要があり、長年、アルミの結露に悩まされてきました。結露が出るとサビの原因となり、サビが発生したアルミは当然、製品としては使いものになりません。結露対策として、アルミにシートを被せてみたり、送風機やファンヒーターを導入してみたりしたのですが、抜本的な改善にはいたりませんでした……。年間で何トンものアルミの廃棄処分が出ている状態を「なんとかしなければ」という想いがずっとあったんですよね。そして、5、6 年前でしょうか、東南アジアに出張に行った際に、街に目を向けて見ると、駅の構内や公園などいたるところにシーリングファンが設置されていたんです。それを見たときに「これだ!」と閃きました。
空気を上手く回流させれば、湿度が軽減するのではないかということですね?
西田そうですね。ただ、仮説を立てるのは容易なのですが、シーリングファンなんて今まで一度も作ったことがないわけです(笑)。社員のみんなも普段の業務で忙しいから、とりあえず、カタチにできそうなところまでは自分でなんとかしようと思いました。羽は自社にあるアルミを使う、モーターは軽量コンパクトで壊れにくい三菱電機製を使うなど、ある程度の決め事はありましたが、試行錯誤の毎日でしたね……。でも運がいいことに、たまたま航空力学の専門家と知り合いだったので、その方に教えを請うたりして、頭にあるぼやっとしたイメージをCADソフトで図面に起こしていきました。
結露対策だけのためなら、他社の製品を購入するという選択肢もあったのではないかと考えてしまうのですが?
西田そのような考えはあまりなかったですね。ゼロからの挑戦だけれど、プロダクトに落とし込むことさえできれば、我々のように困っている企業様がいるのではないかという確信がどこかにあったので、既製品に頼らずに、意地でも、私たち西田技巧が世界最高の大型シーリングファンを作ってやろうと、ものづくり屋のプライドに火がついたんですよ。
目には見えない「風」をコントロールするために。ゼロからの開発は、トライ&エラーの繰り返し。
なるほど。潜在ニーズがあるはずだと。
製造部の山本さんはどの辺りから参加されたのでしょうか。
山本大介氏(以下、山本)西田社長がCADで図面を起こした初期の段階で声をかけていただきました。プロダクトとして確立しているものであれば、ふつうは図面通りに制作すれば、まず問題なく出来上がるわけです。ただ、なにもない状態からの製品づくりなので図面を参考に作ったところでしっかり風が送られるのか、構造的に問題はないのか、強度は大丈夫かなど、様々なことがわからないんですよね。ですから試作品を作っては、テスト、微調整、そして再度、試作品を作ってみる。その地道な繰り返しを重ねていきました。羽がまわっているのに、全然風がこないということもありましたよ(笑)。
「風」という見えないものを扱うのは、とても難しそうですね……。
山本風を感じるか否か、またその風が心地よいかどうか。これは感覚に頼る部分が大きかったです。自社工場の天井に試作品を設置しては、私だけでなく社長を含めた社員みんなで風の状態を肌で感じて、それぞれの意見を交わしました。加えて、ファンに対しての風の強さや、空間全体を風がまんべんなく、そしてスムーズに回流しているかどうか。この科学的根拠となる部分は、航空力学を研究されている法政大学の御法川先生にご協力していただきました。
細部まで徹底的にこだわり抜いたことで、「THE FIRST FAN」は、人が心地よいと感じる「1/f※」の風を生みだした。
西田とくに、心地よい風を生むために、羽の形状にはかなりこだわっています。素材は自社にもともとあった約1mmのアルミを使用。羽の角度や曲線をミリ単位で調整。負荷が少なく、一番効率よく風が起きる最適なカタチ、角度を探っていきました。そして私どもが辿り着いたのがヘルコプターの羽の形状でした。これはトライ&エラーを重ねた結果として、自然とそのフォルムに近づいていったんです。流体力学の観点からも、風を効率的に送るためには理想的なフォルムになっています。
そのようにたくさんの苦労と挑戦があって大型シーリングファン「THE FIRST FAN」が完成したのですね。今後、導入を検討されるお客様のためにも、「THE FIRST FAN」の特徴や導入メリットなどを具体的にお聞かせください。
西田まずはなんといっても「1/f」の風を実現していること。これは、一定パターンの強弱とは異なり、人が心地良いと感じる不規則なリズムであり、肌あたりがやさしく、爽やかな涼感をもたらしてくれます。一度、体感していただければその違いに驚かれると思います。そして、当初、弊社で課題にしていたこと。つまり工場内の資材の結露にもしっかり効果があることは忘れずに伝えておかなければいけません。湿度もデータ上で、6%下げることが確認できています。また夏の暑い時期は体感温度を約4 度下げ、冬の寒い時期は、冬の天井にこもりがちな温かい空気を、空間全体に行き渡らせてくれます。
山本特徴面で付け加えさせていただくと、「安定性と長寿命化」「小型軽量化」があげられます。他社さんの大型シーリングファンは総重量が100kg〜120kgもあり、とても重い巨体。そして羽の接合部と駆動ギアが横にズレているため重心が不安定でネジが緩みやすく、頻繁にメンテナンスが必要になってきます。一方、「THE FIRST FAN」は羽の接合部から天井梁まで一直線の構造を採用。重心がブレることなく安定稼働してくれます。実はこれ、弊社の特許技術。そのため、余計なメンテナンスが発生することがほとんどなく、製品の長寿命化も叶えます。また先ほども申した通り、羽自体は薄いアルミ素材を採用しており、さらに中空翼であるため、軽量化も実現。製品そのものの重量を抑えたことで、ふつうであれば設置時に大掛かりに足場を組む必要が生じるのですが、高所作業車を使って設置できるため、その分、費用が安く、さらに安全に設置作業を行えます。
※1/f:パワーが周波数fに反比例するゆらぎのこと。ただしfは0より大きく有限な範囲をとるものとする。規則性と不規則性が調和し、心地よく感じるゆらぎ。
品質も、サービスも、安全性も。自分たちが納得し、お客様に満足していただけるまで妥協しない。それこそが、「西田イズム」。
こだわり抜いて開発したからこそ、他社にはない優位性が生まれているのですね。ちなみに「THE FIRST FAN」はモーターが三菱電機製であり、西田技巧の工場(岐阜・美濃加茂市)で製造されています。ということは、メイド・イン・ジャパンになるわけですよね?
西田はい、そうなんです。HVLS(Hign Volume Low Speed)ファンという製品カテゴリの中では唯一の日本国内製造です。ただですね、これはお伝えしておきたいのですが、品質の良い日本のパーツを採用し、国内の自社工場で作っているから安易に「日本製です」ということではないんです。つまり、「THE FIRST FAN」には、日本のものづくり屋、ひいては西田技巧の「心遣い」が凝縮されているということなんです。弊社の全員が一番大切にしている経営理念に「あなたの夢を叶える匠集団」という言葉があります。「あなた」とは「お客様」であり、「社会」であり、「他の社員」であり、そして「自分自身」でもある。社会を良くしていくというのは企業の責務ですが、それを実現するためにまずは、自分自身が本当に欲しいもの、必要なものを考えなくてはいけない。そのことを突き詰めた結果として、他人や企業、社会に求めていただけるモノになっていくわけです。ですから「THE FIRST FAN」もまずは、私や西田技巧の社員全員が満足できるクオリティを追求するわけです。その上で、コスト面、安全性、性能、サービスなど、お客様にとって、もっとも満足していただけることを様々な側面から考え、提供させていただくようにしています。
そのマインドこそが本当の意味でのメイド・イン・ジャパンということですね。西田社長からの話を受けて、山本さんはどう思われますか?
山本「あなたの夢を叶える匠集団」という理念は、手前味噌かもしれませんが、社員みんなが心に刻んでいます。私だけでなく、社員のほとんどが徹底的にやり抜きますし、「もっとこうしたら良くなるんじゃないか」「もっと新しい可能性はないだろうか」と自発的かつ自由に探求している気がします。そして、その理念が根底に流れているからこそ、先ほど西田社長が申し上げた、「心遣い」ができてくるんだと思います。
「心遣い」という部分についてもう少し具体的に教えていただけますでしょうか。
山本海外メーカーの設置の話を聞くと全メーカーではありませんが、シーリングファンありきの発想のようで、「発売している製品の取付部分の形状がこうで、パーツがこうだから、この工場には取付けられません」となってしまうようなんです。しかし弊社は、それとは180度異なり「お客様ファースト」の発想です。つまり、建物や設置環境ありきの考えとサービスを提供しています。取付に関しては、ほぼオーダーメイドで対応させていただくことができます。導入していただく工場でお客様が「梁がH鋼なんだけど大丈夫でしょうか?」「斜めの梁に設置したいです」とお問い合わせいただいても「H鋼に(斜めの梁に)合わせた取付にしますから問題ありませんよ」とお応えできます。これは板金加工を生業にしている職人集団の強みと言えるかもしれませんね。また導入してくださるお客様の元へは必ずお伺いするようにしています。先ほどの梁の形状や位置もそうですし、空間の広さや天井までの高さを実際に測量した上で、より快適な空間をご提供できるように、設置前には、開発段階でもお世話になった航空力学の専門家、法政大学の御法川研究所の協力を得て、科学的な対流シミュレーションも行わせていだいております。
西田あとは、制御盤に電気系統をまとめているので、電気まわりでトラブルが仮に発生しても、わざわざファンを外して地上まで降ろす必要がありません。また、止め具ひとつをとっても震度7相当の揺れでも緩まない最高品質の部品を採用しており、安全性には絶対の自信をもっています。細かい部分かもしれませんが、自分たちが納得するものを、「お客様ファースト」で考えて、追求していった結果、品質も安全性も優れたものが生まれたのかもしれません。もしお客様の中で「こんなものが欲しいんだけど」「こういうことはできないかな?」というご要望があれば些細なことでもいいので、気軽にご相談いただきたいです。西田技巧は職人集団ですが、固定概念にとらわれずに、新しい挑戦をどんどん試みます。ですから、お客様のご要望に安易に「できないです」とは言いませんし、それが日本という国で、ものづくりをおこなう私たちのプライドでもあります。
避難所用の組み立て式ファンも発売されていますが、この製品自体が「心遣い」そのもののような気もしますね。
西田近年、大きな地震や台風が日本各地で頻繁に発生しています。世界的な災害大国であるにも関わらず、この国の避難所の環境って全然、進歩がない。体育館や公民館の中で、何人もの人が雑魚寝状態で過ごし、大型の送風機があったとしても風が届かないか、直接強く当たりすぎて体調を悪くしてしまう。これはなんとかしなければいけないという危機意識から、柱のついた組み立て式の小型ファンを作りました。大人3~4名で短時間で組み立てられて、1 台でバスケットコート約2面分をカバーしてくれます。私どもの地元、岐阜県・美濃加茂市の災害避難所でも導入していただいています。
気候の変動、自然災害の増加、労働環境の改善など。
これからが合間って、今後、様々な業界から、大型シーリングファンが必要とされるはず。
最後に、これからの大型シーリングファンという製品に対する可能性や、展望などをお聞かせいただけますか?
山本今の日本は、夏はとても暑く、冬はとても寒い。心地よく過ごせる春と秋の期間も短くなっている。そんな、暮らしにくくなりつつある自然環境と、政府の働き方改革による労働環境の改善。このふたつが相まって、「より快適に過ごせる」という価値を提供する、大型シーリングファンの需要は今後、増えていくのではないでしょうか。実際、「THE FIRST FAN」も発売から1年が経ちますが、右肩上がりでお問い合わせやご契約数が増えています。昨年も大手自動車メーカーさんや自動車部品メーカーさんの工場に導入させていただくことができました。また、これまでに「THE FIRST FAN」を導入させていただいた企業様からは、「熱中症で倒れる社員がゼロになった」「結露やオイルミストが無くなった。サビの進行が遅くなった」「快適だからか、作業員の動きが良くなった」「電気代などのランニングコストが安く、エコな製品を導入できてよかった」などといった嬉しい声をいただきますし、そんな感想をいただくたびに、「室内環境に困っているお客様はまだまだいらっしゃる」という確信を持ちますね。
西田現在は、私どもと似たような業界の企業様から、お問い合わせをいただくことが多いのですが、大型シーリングファンの導入メリットを感じていただけるお客様はまだまだたくさんいるはずなんです。例えば、畜産業。牛舎などに設置すれば、牛にとっても過ごしやすい環境になるわけです。暑さが大敵なのは人間だけではありませんからね。実際、トマトにクラシックを聴かせて栽培している農園もあるようですし、それだけ人にとっても、動植物にとっても「快適に過ごせる」というのは大切なのではないでしょうか。さらには、湿度のコントロールが重要視される「酒蔵」。子どもたちの熱中症軽減につながる「学校の体育館」。空調の効きすぎを改善でき、来場客の満足度向上に繋がる「商業施設」や「大型イベント会場」など。海外では至るところに、シーリングファンがあるのに、日本での普及はまだまだ。ですから、私どもの製品が、日本ひいては世界中の様々な場所で見られるようになって、それぞれの空間の「快適」に貢献していくことができたら嬉しいですね。そして、それこそが、西田技巧ならではの「SDGsへの貢献」でもあると考えています。
PROFILE
- 西田裕幸 (代表取締役)
- 岐阜県・美濃加茂市出身。鉄鋼商社にて約10年間、営業職を経験。退職後、1996 年に西田技巧を設立。板金加工や溶接に特化した職人集団を一代で築き上げた。常識や固定概念にとらわれずに、つねに新しい可能性を追求し、自分のため、社員のため、世の中のためになる製品作りをモットーとしている。
- 山本大介 (製造部・課長)
- 岐阜県・各務原市在住。岐阜県の工業高校を卒業後に、板金加工会社に勤務の後、約7年前に西田技巧に就職。技術者としてはもちろん、チームをマネジメントする現場統括も務める。「THE FIRST FAN」を発売してからは、営業として全国のお客様のもとにも飛び回っている。西田技巧は、主体性を重んじ、アイデアや提案を柔軟に受け入れてくれるため、日々、やりがいを持って働いている。
もっと読む
閉じる